千葉県習志野市立秋津小学校のコミュニティ・ルーム

秋津小学校のコミュニティ・ルームは、学校施設を開放し、その施設をより有効に活用するモデルのお手本のようになっていますが、岸さんのお話は、学校の施設をリソースとして学校と地域社会で上手に共有することで、先ずは人と情報が集まり、人が人と情報に出会うための場をつくるという内容でした。そのような人が出会い、じっくり話し合える場を学校の中につくることは、住民たちによるこれまでには見られなかった協働のかたちや市民文化を生み出し、子ども、先生、住民のみなさんによる「秋津版、三方よし」の生涯学習構想へと発展していくことになります。お話で印象に残った言葉は「子ども」と「縁」でした。

玄関に立つと右の画像にあるようにコミュニティ・ルームの広いスペースが目に入ります。奥の方から子どもたちと女性の声が聞こえてきます。どのような活動をしているのか質問してみると、地域のおとなが講師として参加し、小学生に勉強を教えているということでした。夏休みに、子どもたちは百円を持って自宅から通学路を通りコミュニティ・ルームに集い、友だちと一緒に遊んだり、おやつを食べたりする時間を設けながら、たのしく勉強するそうです。子どもたちは、自分のレベルに合わせて学習内容を選べるので、自然と3人ほどのグループになり、教え合いながら真剣に学習していました。

コミュニティ・ルームでは年間300日ほどの活動があるようで、児童数が減少しても学校の施設は、とても有効に使用されていることが分かりました。ただし活動への教職員の参加は一切求めず、コミュニティ・ルームの鍵の管理から施設の運営は秋津地区の住民のみなさんが行い、子どもが参加する様々な活動や教室も住民のみなさんが話し合い、アイディアを出しながらつくっているということでした。参加されるみなさんは、自ら、進んで行われる活動づくりや子どもとかかわることをたのしんでいるようです。

コミュニティ・ルームの開設要望書を教育委員会に提出して実現まで2年を要したようですが、住民どうしのパートナーづくりや協働の実践についてのお話から、コミュニティ・ルームの運営を学校教育や教職員の業務から先ずは切り離すことを前提に、学校を核としたコミュニティづくりの新しいかたちがよく分かりました。放課後や休業日などの開放施設の管理責任者を校長から教育長へ移管する、学校管理上仕切りをつくるためにシャッターを設置するなど、秋津小学校内の施設を開放するためには、策や工夫が施されていました。また、岸さんの学社融合論が目指している生涯学習構想のゴールも見えてきました* 。

ご夫妻との3時間ほどの交流でしたが、コミュニティ・ルーム開設時、一緒に活動された校長先生との心温まるお話を聞かせていただいたり、エリア・コミュニティやスクール・コミュニティについても意見交換ができました。経験に裏付けられたおふたりのお話は、とても分かりやすく、つくられてきたモデルやそこに見られる工夫は、すでにスケールアウトし同じような実践が広まっていますので、意見交換の内容も今後少しずつ紹介したいと考えています。

〔付録〕子どもの活動や施設を見学しているとき、廊下を歩いていた子どもに挨拶をすると笑顔で挨拶をかえしてくれました。その数秒、子どもの顔表情や態度から、おとなたちへの信頼感とこのおとなは大丈夫という判断力が働いたように感じられました。学校を開き、たくさんのおとなが親身にかかわることで育てられた子どもが持つ知性のようなものが伝わった瞬間でした。

次回は、コミュニティ・ルームに関する教育施策上の成果などにも触れ、中学校の実践例を紹介する予定です。

* 学社融合論は、岸さんが書かれた「学校開放でまち育て」(学芸出版社)の63ページから80ページと「『地域暮らし』宣言」(太郎次郎社エディタス)の80ページから128ページに他校の事例を紹介しながら分かりやすく書かれています。また、2011年出版の天笠茂(編集代表)・小松郁夫(編集)の「『新しい公共」型学校づくり」(ぎょうせい)の岸さんが担当した第5章には、分かりやすい図表や改正された社会教育法の解説を加えた詳しい説明があります。