大学向け次世代型早期学生支援ツールの概要
早期学生支援ツール(SSQ)の提供
スチューデントセンタードの理念
つなぐ未来研究所(以下、つなぐ研)は、マーケティングの視点から学生のリテンション(中途退学や転学の防止)をEMの戦略的なテーマと位置づけ、私たちはスチューデントセンタードの理念に基づき早期の組織的な支援(チーム支援)による離学行動(中途退学や転学など)の予防や自己認識など学生の心のスキルの定量化を目的とした早期学生支援ツール、EM・IR1を支援するシステムの開発を行っています。2022年度より、すでに大学や高校への導入実績がある早期学生支援ツールSSQ(Student Satisfaction Questionnaire)の本格的な提供を開始する準備に入りました2。
1 EMはエンロールメントマネジメント(Enrollment Management)、IRはインスティテューショナルリサーチ(Institutional Research)の英語略称になります。
2 集計解析用ツールのシステム(ソースコード)の無料提供と改修及びサーバー運営に関する支援の準備になります。
- SSQの利用シーン
独自の学生向けWebアンケートを実施し、その結果をWebアプリケーションへ移行することで、学生の「困り」や適応の状況を把握することができます。うまく大学生活に適応できない学生や潜在離学者を含め、修学などにおいて早期の支援が有効な学生を特定し、離学行動の予防を含め早期の積極的なアプローチが可能になります。
データに基づくエンロールメント・マネジメントの実現、学生の大学生活満足度やエンゲージメントの向上、離学防止(リテンション)、教職員間の情報共有を支援します。
- ビジュアル化されたデータ
自己肯定感や孤立感などの学生の感情を定量的に評価し、数値化されたデータをビジュアル化することができます。このデータの数値化とビジュアル化により教職員間での学生情報の共有が促進されることが期待できます。
- 学生の持つ「困り」を可視化
学生の持つ「困り」を可視化学生の抱える課題や「困り」を可視化し、直感的に把握することができます。また人間関係などの学生の「困り」を様々な観点から分析し、加えて時系列モニタリング機能を有していることから新しい気づきやインサイトを引き出すことに貢献します。
- 時系列モニタリング機能
入学後などの移行期、人間関係など学生の「困り」を様々な観点から分析し、加えて時系列モニタリング機能を有していることから新しい気づきやインサイトを引き出すことに貢献します。
- 教職員と学生とのメンターシップの構築
学生の感情データの他、GPA・出席状況などの定量的データに加え、学生によるラーニング・コミュニティの形成状況など、教授法の改善や教職員と学生のメンターシップ構築を支援します。
- 大学生活のQOL(生活の質)の向上
大学生活の満足感だけではなく入学前の状況などを測り不満足の要因にアプローチすることで、これまで気づきにくかった課題や学生の必要性について早期の把握が可能となります。大学生活のQOLを画一的に評価せず、修学支援や離学防止を戦略的に実施することができます。
大学のEM・IRを支援するツール
クラウド型Webアプリケーション
SSQ( Student Satisfaction Questionnaire )は、EM・IRを支援するツールです。ツール(アンケート名など)は導入する大学の要望により名称をカスタマイズします。
* EMはエンロールメントマネジメント(Enrollment Management)、IRはインスティテューショナルリサーチ(Institutional Research)の英語略称になります。
私たちは質問紙形式の調査ツールを提供することで、大学のエンロールメントの進化を支援したいと考えています。例えば、次の図1のPDCAサイクルのR(調査)にSSQを導入することで、学生の実態や学部改革の成果などの分析・評価に、または改革案・アクションプランの作成に役立つ情報が得られます。
図1 PDCAにR(調査)を導入したマネジメントサイクルのイメージ
日本には300万人の大学生(短大生を含む)がいます。毎年その5%ほどが中途退学もしくは休学していることが分かっています。その主な理由は、経済的な問題、転学、学力不振などですが、学習でのつまずき、人間関係の問題、家庭の事情などが原因となって徐々に大学生活を続けていく意欲を失っていくケースも少なくないと思われます。私たちはそのような心の変化を早期に把握し、学生一人ひとりが大学生活のゴールを目指し積極的に学生生活を送れるように、大学のEM及びIR活動をアセスメントの視点からサポートしています。具体的には、アセスメントツールとそのツールを有効に活用するためのシステムを開発しています。
SSQは、Webアンケートと解析用アプリから構成され、学生の出席状況や授業評価などを一元的に管理することできます。SSQは、これまでの学生を対象にしたアンケート調査と比べると、次の表1のような機能が備わりその効果が期待されます。
表1 SSQの機能と期待される効果(一部)
表中の ● で示した学生の離学傾向は数値化されることで、大学内で縦断的・横断的に情報の共有がスムースに行われます。またリテンションの視点から、このような機能は、大学が持つリソースを結集し早期の学生支援を可能にします。言い換えれば、学生にとって適切なときに、積極的な支援を行うことで、離学を未然に防ぐことに貢献する機能だと考えられます。
学生の課題や困りを把握する方法があります
次の図2‐ 図5は、SSQによって測定された学生の自己肯定感、学習への意欲、教員からのサポート期待の関係を示す資料になります。
図2 教員からのサポート期待と自己肯定感の関係
SSQには学生の記述による回答を求める質問項目があります。テキストマイニングにより、左図では教員からのサポート期待の低い学生には学習への不安が見られ、右図では自己肯定感が高い学生が学習を含め充実した大学生活を送っていることが分かります。しかし、この資料には、教員からのサポート期待の低い学生と自己肯定感の高い学生の関係は示されていません。
図3 教員からのサポート期待と学習への意欲・早期学習支援への期待の関係
図3では、教員からのサポート期待が高い学生とそうでない学生を比較し、学習への意欲と早期学習支援への期待の変化を示しています。教員からのサポート期待が高い学生には、学習への意欲を示す学生が中間群や低群に比べて明らかに多く、大学が提供している学習支援にかかわるリソースを上手に使おうとしていることも類推できます。
教員からのサポート期待と抽出語の関連性( jaccard 係数 )を図4で見てみると、教員からのサポート期待が高い学生群は大学での学習や単位の取得について心配はしているが、不安に関しては中間群と低群の方が関連性を強く示していることが分かります。教員からのサポート期待が学生の学習意欲や将来不安などに影響を及ぼしていると考えられます。(図4は、検証的な視点から作成した外部変数としての3つの学生群と抽出語の関連性を示した共起ネットワークが複雑なことから単純化し、分かりやすくしました。)
図4 教員からのサポート期待と抽出語の関係の強さ
日本の学生の自己肯定感及び自尊感情は、低いと言われています* 。確かに図3、図4からは、自己肯定感の高い学生は、前向きで、情報や様々なリソースを上手に活用しているようなイメージを持たれ、成功者の秘訣のように自己肯定感は評価されています。しかし学生の離学防止という視点で自己肯定感を捉え直すと、次の図5で示されているように離学の様相はもう少し複雑なことが分かります。
図5 自己肯定感の高低による教員からのサポート期待と潜在離学者の関係
図5からは、自己肯定感の高い学生であっても教員からのサポート期待が低い学生の中には、潜在離学者が含まれていることが分かります。このことを図2と図3から明らかにすることは難しく、自己肯定感と他の指標をクロスさせることで離学にかかわる問題を抱える学生の早期の把握が可能になります。
* 平成26年版子ども・若者白書、特集「今を生きる若者の意識~国際比較から見えてくるもの~」(内閣府)には、自己肯定感に関して、「日本の若者は諸外国と比べて、自己を肯定的に捉えている者の割合が低く、自分に誇りを持っている者の割合も低い。日本の若者のうち、自分自身に満足している者の割合は5割弱、自分には長所があると思っている者の割合は7割弱で、いずれも諸外国と比べて日本が最も低い。年齢階級別にみると、特に10代後半から20代前半にかけて、諸外国との差が大きい。」とあります。また、Schmitt & Allik(2005)は、Rosenberg 自尊感情尺度を用い下位にはアジアの国や地域が多いことを示し日本が調査対象となった53ヶ国で自尊感情(自己肯定感)がもっとも低いスコアであったことを報告しています。( Schmitt, D.P. & Allik, J. 2005. pp.637-638. Simultaneous administration of the Rosenberg Self-Esteem Scale in 53 Nations: Exploring the universal and culture specific features of global self-esteem. Journal of Personality and Social Psychology: 89, 623-642. )
学生の気持ちや考えを定量化し可視化する方法があります
図2‐ 図5で可視化された学生の気持ちや考えはSSQの機能の一部ですが、SSQを導入しその機能を駆使することで、大学のEM及びIR関係者から学生一人ひとりに合ったサポートや大学のリソースの活用に関して、これまでにない提案が可能になると考えています。例えば、家族へのアプローチがあります。図5は、家族との関係から自己肯定感が高い学生であっても離学傾向が高いことを裏付ける資料になります。図2では、自己肯定感が高い学生が充実した大学生活を送っていることが分かりましたが、図4からそのような学生の中に離学傾向を示す学生(潜在離学者)の存在が確認できました。
次の図5からも自己肯定感が高い学生であっても家族との不仲を訴え、家族をリソースとして上手く使えていない学生の中に、早期支援の対象者がいると考えられます。具体的な支援方法は、孤立感や将来不安など他の指標から構成されるサブシステムから提供される情報を手がかりに検討することができます。
図6 自己肯定感の高低による家族との不仲と離学傾向の関係
図5と図6では、自己肯定感が高い学生であっても離学におけるリスクが高まる状況があります。アクティングアウトする前に予防的なアプローチが必要なことが示されています。
このようにSSQを活用したアセスメントでは、離学傾向や家族との関係の測定、潜在離学者の把握など、様々な指標を利用することができます。したがって学生の必要性を的確に理解し早期の積極的なアプローチを可能にすることから、SSQは戦略的ツールだと評価されています。
時系列モニタリングにより見守るという発想
SSQの機能の1つに、時系列モニタリングがあります。これまで紹介した自己肯定感、教員からのサポート期待、家族との不仲などの指標によって定量化されたデータは、調査時の学生のスナップショットとして視覚的に表示されるだけでなく、時系列モニタリングにより過去のデータとの比較が容易にできます。この機能を備えることで学生一人ひとりへの見守りが可能になりました。
SSQのサブシステムに組み込まれている将来不安、孤立感などのネガティブな感情を定量化する機能に、この見守り機能が加わることにより学生の見えにくい心の変化やヘルプサインにも注意を向けることができます。学生が抱えている心の疾患、収入減少による学費等の支払負担、人間関係のトラブルなどが重症化もしくは深刻化する前に、医療・心理分野、ファイナンシャル分野、福祉分野などの専門スタッフへリファーするなど、これまで以上にチーム力を向上させ学生の問題解決力を生かし支援できることが、この時系列モニタリング機能のよさになります。
調査方法・集計方法について
学生を対象にした調査にはWebアンケートという方法があります
学生はスマートフォン、タブレット、PCを使用し、大学からメールなどで一斉送信されたURLやQRコードから配布されたパスワードを入力し、次の図1のような画面を開くことができます。アンケートに協力することに同意して、名前、性別、学籍番号、学部などを入力もしくは選択するページが順々に開かれます。
図1 Webアンケートのフロントページ(例)
次の図2・図3のようなURLとQRコードが発行されます。どちらもアンケートを表示するはパスワードの入力が必要になります。
図2 発行されるURL(例)
図3 発行されるQRコード(例)
回答した学生一人ひとりにアンケートURL(図2)の末尾に 文字列 が自動的に追加されます。この機能によって、クロス集計などに加工される前の個別の回答結果をローデータレベルで確認することができます。
以下、準備中