受容感プロファイリングとは

 

私たちは、自己肯定感の低い子どもたちを2つのグループに分けることは、積極的な児童生徒指導を進めていくうえで有効な方法だと考えています

自分の内面を外にあまり表わさない児童生徒であっても、遅刻や早退がつづき、学力不振や大人への反抗的態度が見られるなど、目に見えるサインやSOSを出すことで、その子どもが何かしらの問題を抱えていることは、周囲の誰もが分かることだと思います。しかし、学校は休まない、成績も悪くない、積極的に行事や学級活動に参加し、暗い表情など見せない生徒が、実は自己評価が低く焦燥感に駆られている、孤立感を持ち続けていることは、教育現場では少なくありません。このような児童生徒を早期に把握するために、受容感プロファイリング と表情観察の導入を教育現場に提案しています。児童生徒が持つ感情を数値化することで、子どもの困りや指導対応上の改善点を教員間で共有し、連携が強化されます。他者受容感には、周囲から距離を置かれる状況がつづくことが原因でもたらされる感情を示すこともあります。そのような感情は、孤立感を代理指標とし数値化しています。

自己肯定感が低いと言われる児童生徒の中で、自己受容感が低く他者受容感が高い子どもたちは、自分で自分を支えられなくなるまで、我慢しながら頑張ってしまうことがあります。このような子どもたちが示す問題行動は、周囲が気づかないまま予期しない方向へ推移し、深刻化する事例は少なくありません。

私たちがGAPギャップGeneralized Acceptability Profiling)とよんでいるこの受容感プロファイリングを用い、子どもの受容感構造と感情の流れを把握することとこれまで教育現場で行われていた観察法や面接法とは、くるまの両輪の関係にあると考えています。

 

自己受容感と他者受容感は、つぎのように理解することができます

 

 

児童生徒の受容感構造ごとに行動の特徴を把握できます

受容感プロファイリングでは、図Ⅰに示しているように自己受容感と他者受容感の高低から、受容感構造を4つに分類します。図ⅠのLH型は自己受容感が低く、他者受容感が高い児童生徒になります。児童生徒のそれぞれの受容感構造に共通して見られる態度や行動の特徴を理解することで、不登校行動やその他の問題行動の出現過程に示される違いを実際の指導対応に生かすことができます。

低い自己肯定感を示した児童生徒に対して受容感構造の違いや変化を把握することで、より適切な指導対応が可能になります。

図1 児童生徒の受容感構造

 

 

受容感プロファイリングのプロットマッピングの動画

児童生徒の受容感構造を学級単位にプロットする

 

受容感プロファイリングでは、児童生徒の受容感構造を学級ごとにプロットするマッピングを行います。この機能により不登校や問題行動の出現リスクの高い児童生徒(潜在群を含む)を早期に把握することができます。学級編制のシュミレーションなどにも活用することができます。

 

受容感プロファイリングの時系列モニタリングの動画

時系列モニタリングによる不登校・問題行動潜在群の把握

 

時系列モニタリングを行うことで、前回、前々回の調査結果と比較し、児童生徒一人ひとりの受容感構造の変化を把握することができます。明るくたのしく学校生活を送っているように見えても、孤立感を感じ自己肯定感を持てていないなど、児童生徒の心の状態を理解することができます。

 

自己肯定感の低い児童生徒は “ 頑張ってしまう ”

図2は、受容感構造がHH型の児童生徒の感情の相関関係を示しています。受容感プロファイリングで数値化されるネガティブな感情の一部は、孤立化が進行する過程で、学級帰属意識が低下し学校忌避感が高まるなど、登校を回避したい気持ちが生じているようです。

しかし、LH型の受容感構造を示す児童生徒は、孤立化の進行と「学校がたのしくない」や「学校に行きたくない」などの学校忌避感との関係は、( )内のように負の相関係数を示します。因果関係は明らかではありませんが、この調査結果からLH型の児童生徒の一部には、自己肯定感が低く孤立感を持っていても、これまで以上に責任を感じたり、さらに頑張ろうとしたりするなど、ほかの児童生徒に比べて、その「困り」の特異性を知る手がかりが得られます。

図2 ネガティブな感情の相関関係(高校生)

 * 表示されている相関係数は、すべて5%水準で有意である。

 

受容感プロファイリングと時系列モニタリングの必要性

受容感構造がLH型を示す児童生徒の中には、自己評価が低くいまま、頑張りすぎる人たちが含まれていることが分かります。自分で自分を支えられなくなり不登校行動が突然示されることがあります。問題行動がアクティングアウトする前は、このような児童生徒は周囲に相談することはなく真面目に頑張っていますので、困っている状況は気づかれにくく、普段と同じ印象を持たれてしまいます。このような人たちを、私たちは不登校や問題行動の潜在群とよび、予備群と区別しています。

つぎの図3から、自己肯定感が低い児童生徒の一部に不登校行動や問題行動が突然アクティングアウトする、その心の変化を理解する手がかりが得られます。受容感構造がLH型を示す児童生徒は、点線(・・・・・・)の傾きから、心と身体を休めることなく、頑張り続ける結果、自分で自分を支えられなくなり、学校生活が続けられなくなり不登校行動が見られることも少なくないと考えられます。

図3 受容感構造別、出席状況の時系列モニタリング

* 上図:左から、HH型(112名)、LL型(21名)、LH型(38名)のGCMパス図

中学校1年生のときの受容感構造ごとに、その後の出席状況の変化を示しています* 。自己受容感が低く、他者受容感が高いLH型の生徒は、欠席や遅刻・早退が少くなり、出席状況など、このような生徒はその行動面から困っていることがあったとしても把握しにくいことが分かります。しかし、このLH型を示す生徒の中から、2年生の9月以降、登校を回避する行動や年間欠席日数が30日以上の不登校行動が見られました。このような傾向は、受容感構造ごとに出席状況を時系列モニタリングすることで、高等学校でも確認されています。

* 出席状況:1年生1学期の欠席日数を基準に、それぞれの増減率を示しています。

 

がまんして登校する子どもたち

不登校行動が出現するまでの過程において、図4の氷山モデル* のように、児童生徒を予備群と潜在群を区別することは、積極的な児童生徒指導を進めていくために必要なことだと考えています。予備群の児童生徒には、保健室の利用回数が多くなったり、理由が不明な欠席が続いたりすることで、これまでの行動や過去の出席状況などから、観察によって不登校行動のサインかどうかその把握が可能な事例が多く。一方、潜在群には、ネガティブな感情がマスキングされ笑顔を見せたのしそうに学校生活を送っている印象を周囲に与えたり、困りのサインが分かりにくかったり、SOSを出さないまま自分の困りや不安を隠しながら、がまんして登校している子どもたちが含まれています。行動の観察や出席状況から早期の把握が難しく、水面下の見えにくいところ(図4のの領域)に分けられる児童生徒は、自分の問題をひとりで抱え込んでしまい、学校や家庭の気づきや見守りが遅れ不登校行動の出現やその長期化などさらに状況が深刻化してしまうことも少なくありません。

教育現場では何かしらの方法を導入し、不登校行動が出現するまでの過程において、児童生徒を必要とされる指導方法が異なる予備群と潜在群** に分けることは、積極的な児童生徒指導を進めていくうえで有効だと考えています。

図4 不登校行動の氷山モデル

 

   * この氷山モデルに示された不登校行動の予備群と潜在群という分け方は、森田洋司(1991)が「暗数」や「氷山の一角」という表現を用い、その存在を明らかにしようとした不登校のグレイゾーンとしての潜在群(がまんして登校する生徒)から手がかりを得ています。森田洋司(1991)「『不登校』現象の社会学」 pp.23-33 (学文社 1991) .

** 潜在群に含まれる人たちの一部は、自分の困りを周囲に気づかれないように気をつかいます。SOSを出さないまま「よい子」「よい人」を演じ、心が疲れてしまい、心が病んでしまうことも心配されます。企業にとって、このような状況にある人たちは潜在離職者と呼ぶことができるかもしれません。

 

受容感構造に着目することで得られるエビデンス

 

図5 自己肯定感と自己評価規準(向上心)の関係

* 生徒(N=289)の自己評価規準×受容感構造の交互作用は、F(3,281)=2.900となり5%水準で有意(p<.035)である。

図5では、高い自己評価規準(向上心)を持つ高校生の中で、受容感構造がLH型生徒群の一部に低い自己肯定感が示されています。このことから自己評価規準が高く、LH型の受容感構造を示す児童生徒には、なんとか自分で自分を支えようと頑張りすぎ、疲れてしまうことが心配されます。

 

図6 性差と教員からのサポート期待に着目した孤立感の比較

* 生徒(N=163)に見られる性別×教員からのサポート期待×受容感構造の交互作用は、F(3,147)= 2.871であり5%水準で有意(p<.038)である。

図6からは、高校生の場合、同じLH型の受容感構造を示していても、女子生徒は孤立感を強く示している生徒は教員からのサポート期待が高い。また、LL型の受容感構造を示し孤立感が強い生徒は、男女ともに教員からのサポート期待が高いことも分かる。

 

図7 受容感構造の違いによる失敗場面の回避と教員からのサポート期待の関係

* 生徒(N=88)に見られる失敗場面の回避×教員からのサポート期待×受容感構造の交互作用は、F(1,84)= 4.589であり5%水準で有意(p<.035)である。

自己評価が低いなどが理由で、低い自己受容感を示すLL型とLH型の生徒であっても、図7からは、高校生の場合、みんなの前でまちがったり、失敗したりすることは、さほど気にならないという生徒が、LH型の受容感構造を示す生徒の中にいることが分かります。

自己受容感が低く他者受容感が高いLH型を示す生徒であっても、図中に示した のように、教員からのサポート期待に明らかな差異が見られます。同じLH型の生徒の中には、生きづらさを感じながらも教員からのサポート期待が高く、親身な対応が期待できると教員を評価できる状況では、学校ストレスを緩和しながら心のバランスを保ち、上手に学校生活を送っている生徒がいるようです。

図7は、失敗場面の回避と教員からのサポート期待との因果関係を、分散分析に基づいて明らかにするものではありません。しかし高校生であってもLH型の受容感構造を示す生徒の一部には、教員による親身な対応が、学校に行きたくないなど、登校を回避するようなネガティブな感情の低減に有効なことから、問題行動の潜在群に対してどのように指導するか、その指導方法を工夫する手がかりが得られると思います。

生徒の受容感構造を把握し、このようなLH型を示す生徒の特性や課題を、学校が組織として、あるいは学年などチームレベルで共有することは、積極的な生徒指導を前へ進めていくために、有効な方法だと考えられます。

** 図7は、図5、図6とは異なる高校生(1学年-3学年)を対象に実施した調査に基づいて作成されています。

 

図8 自己受容感の違いによる失敗場面の回避と真面目な生活態度の関係

多母集団同時分析を用いた生徒群の比較

図8は、教員による親身な対応は、生徒の学校忌避感と関係がある(仮説Ⅰ)、失敗場面を強く回避したいと思う生徒は、学校忌避感が高い(仮説Ⅱ)、教員による親身な対応は、失敗場面の回避を緩和し、学校忌避感を低減する(仮説Ⅲ)に基づきつくられたモデルをシンプルに改良しつくられました。また、多母集団の同時分析では、自己受容感が高い生徒群(n=201)は75パーセンタイル、自己受容感が低い生徒群(n=201)は25パーセンタイルを、それぞれの生徒群の基準とし、2つの母集団の間にどのような違いが見られるかを確かめました。

図中の潜在変数間に見られる太線 のパラメーターには、母集団の違いによって異なるという制約を置き、それ以外は観測変数の各項目へのパラメーターを含め2つの母集団間ですべてを等値としました。結果、適合度指標は、GFI=.901、AGFI=.860、RMESA=.064となり、仮説モデルの検討は必要と思われますが、このことから自己受容感が低い生徒には、学校生活での失敗経験(屈辱)を回避したいと強く考え、教員の言うことをよく聞き、真面目に学校生活を送ろうとする傾向が示されているように思われます。このことは、自己肯定感が低い生徒の一部に見られる、生真面目で自分自身を追い込んでしまう心の状態(しくみ)を理解する手がかりになると考えています。

このような生真面目な生徒は、学校生活の規律をしっかり守り、その一生懸命さが何事にも努力を惜しまないと周囲に映ってしまうなど、教員に行動面から意欲的と評価され、その余裕のない状況を誤って理解されることが危ぶまれます。また、失敗場面の回避は、集団生活内の屈辱経験の回避や自己肯定感が阻害される過程でもあることから、不安・悲しみ・怒りなどの感情と繰り返しどのように向き合い対処しているのかを把握することで、その困りの強さや大変さの様相も分かってきます。

Lindner(2001, p.59)は、屈辱(humiliation)について「人と人との間に深刻な亀裂をつくり、その関係を壊す最も強い力が屈辱(経験)にある。」と述べています。また、多様な人間関係に分断をつくり、暴力に帰結することもある屈辱経験に対して、Lindner は人々を結びつけ協働をつくりだす原動力としての承認の欲求(desire for recognition)に着目しています* 。受容感プロファイリングでは、失敗場面などで経験する屈辱を、どの程度回避したいか、その強さを定量的に評価し受容感構造と組み合わせることにより、児童生徒理解及び問題行動分析を行います。

* Lindner, E. G. Humiliation as the source of terrorism: A new paradigm (Peace Research,33,59-68. 2001)

 

受容感構造の時系列モニタリング 使用事例(中学校)

 

図9 受容感プロファイリングと時系列モニタリング 事例Ⅰ

 

図9は、1年生7月の調査のときに、受容感構造がLH型を示した生徒の時系列モニタリングの経過です。1年生から2年生の進級の過程では、良好な交友関係が見られ、自己受容感が高くなっています。2年生7月の調査では、自己受容感が低下しています。9月以降、欠席が目立つようになり、以後出席状況の改善は見られませんでした。

図10 受容感プロファイリングを活用したソシオグラム 事例Ⅰ

 

このソシオグラム(図10)は、図Ⅵの生徒が在籍するクラスの友だち関係を把握するために実施した調査の結果です。■(正方形)でプロットされた生徒の受容感構造はLH型になります。点線の ◯ で囲まれた の生徒が図9の生徒になりますが、不登校行動が示される前には、教員による観察では生徒からのサインやSOSの把握はむずかしく、対処的な指導にならざるを得なかった事例であったと考えられます。

2年生7月の調査に基づき受容感構造を組み合わせたソシオグラムの作成によって、サインやSOSが微細で分かりにくい生徒であっても、不登校行動や深刻な問題行動の出現前に、学級内の友だち関係や学級帰属意識の改善を目的にした早期の教育相談活動やスクールカウンセラーとの連携など、予防的な指導対応が可能な事例であったことが分かります。

 

図11 受容感プロファイリングと時系列モニタリング 事例Ⅱ

 

図11は、学校は休まず、努力家で真面目な印象を持たれていたこの男子生徒は、早い段階から低い自己肯定感を示していました。1年生7月の第1回調査では、自己受容感が低く、他者受容感が高いLH型の受容感構造を示していましたが、その後の調査では、他者受容感が大きく後退し、徐々に孤立感や学校忌避感も強く示すようになっています。3年生のときには、1学期から欠席が目立つようになり、2学期以降は登校せず自宅学習を選択し、登校を拒んだ理由は周囲に一切伝えなかった事例になります。

 

図12 受容感プロファイリングを活用したソシオグラム 事例Ⅱ

 

このソシオグラム(図12)は、2年生の7月に実施した第3回調査結果を基に、図11の生徒が在籍するクラスの男子生徒の友だち関係を把握するために作成しました。図10のソシオグラムのように生徒の受容感構造は表示されていませんが、日常の観察に基づく教員からの聞き取り内容を参考に男子生徒のグループを色分けすると、3つのグループがあることが分かります。図11のネットワーク内のトライアド をつくっている男子生徒3名は友だち関係にあり、学級内の男子生徒のネットワークは強い紐帯が見られるこのトライアドを核に構成され、孤立するグループは見られませんでした。「男子生徒はよくまとまっている。」や「孤立している生徒は、男子生徒にはいない。」など、教員からの聞き取り内容を裏付けてもいます。

点線の ◯ で囲まれた は、図11の生徒になります。2年生のときには、他者受容感が後退していく過程でも学級内に自分の居場所があり、話し相手もいたように考えられます。出席状況が悪化した3年生では、この男子生徒にとって学校生活を続けられないような学級内の人間関係に起因した問題が何か生じたと推察できます。成績上位者であり、いつもニコニコしている印象を持たれ、困りのサインやSOSを出していなかったと理解されていたため、積極的に教員間で情報共有がされていた生徒ではなかったようです。2年生から3年生への学級編制上の配慮が必要な生徒の事例であったと考えることができます。

自己肯定感の低い子どもへの対応と懸念されること

 

私たちは、ACT(アクト;Acceptance and commitment therapy)やマインドフルネスに関する先行研究に着目し、新しい子どもへの指導対応方法を開発しています。教育現場で行われるヒアリングや研修会などでは、その有効性を示しながら、教員のみなさんとアセスメントについて、積極的な児童生徒指導方法について、一緒に考えるようにしています。実際に、自己肯定感が低く、LH型の受容感構造を示す子どもたちは、それぞれのクラスに何名かは在籍しています。感情の交流や円滑なコミュニケーションを目的に、そのような子どもたちに、どのように対応していくかは教育現場での課題になっています。

私たちが教育現場への受容感プロファイリングに加え、ACTの導入を積極的に進めようとした背景には、子どもの不登校行動やその他の問題行動への予防的な指導対応に並行して、うつ病や不安障害に対する発症前の科学的なアプローチや早期の医療との連携の必要性が高い事例があり、ひきこもり、休職、家族負担、自殺など、うつ病にかかわる社会課題の解決のために選択肢が増えることで、疾病負担(disease burden)に伴う社会的な損失や痛みの軽減への貢献が可能だとの判断がありました* 。日本の障害調整生命年(DALYs)によって測定され疾患負荷は、10代後半から20代では精神疾患が占める割合が大きく、また全世界の疾病負担の要因として、うつ病(単極性うつ病性障害;unipolar depressive disorder)が1990年の4位から2020年には2位になると予測されています。うつ病が、伝染病や心臓や脳の疾患と同じように、すでに私たちの健康と経済生活を脅かす要因となっていることが分かります** 。

つぎに、教員研修会で使用する資料*** の一部を、簡単な説明を加えて紹介します。

 

図13 反芻とうつの関係

反芻(rumination)は、繰り返し考え込むことです。抑うつ的反芻が反応のスタイルとして見られる人は、自分の抑うつ気分やその原因や結果が頭から離れないまま繰り返し考えてしまい、反芻の時間は長くなります。自分が置かれている状況を改善したり、自己評価を高めることが難しくなることも考えられます。

 

図14 反芻と時間の関係

反芻の時間が長くなると、一般に不安や抑うつ気分を持続させるだけではなく、ネガティブな心の状態がさらに悪い方へ進んでいくことが分かります。思い悩んでいたり、過去の嫌な経験が思い出されたりするようなとき、反芻の時間を短くすることが、とても重要になります。

 

図15 反芻の時間と品詞の関係

図15で、反芻の時間が長くなることは、不安や抑うつ気分を持続させ、悪化もさせることが先行研究から分かりましたが、この反芻の時間を短くし、状況の改善に役立つ解決方法を見出すために、品詞に着目したマインドフルネスのアクティビティとその応用として言語化を促すツール(DAVA カード)の使用方法が研修の中で用意されています。

     * 厚生労働省が2013年に大規模実施した「国民生活基礎調査」では、うつ病やその他のこころの病気の男女年齢別通院率が、男女とも10代後半から20代前半にかけて上昇し、5倍ほどに増加していることが分かります。女性は30代後半に、男性は40代前半に入院率が最も高くなっています。

   ** The global burden of disease A comprehensive assessment of mortality,injuries and risk factor in 1990 and period to 2020, Figure 2 Change in the rank order of disease burden for 15 leading causes, world. 1990-2020

*** 図13と図14は、株式会社エモスタのCTOのザンダーさん(Alexander Krieg)から提供されたハワイ大学での講義資料に基づき作成しています。

 

受容感プロファイリングの導入が必要な教育現場の事情

 

            ○ 問題行動が思わぬ方向に推移し深刻化することがあります

文科省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」結果に基づいて作成した資料Ⅰ(学年別公立小・中学校不登校児童生徒数)から、不登校が中学校1年生で小学校6年生に比べて、2.5倍ほどに増加しています。

            ○ 対処的ではない積極的な指導を必要としてます

中学校3年生では、不登校行動が見られる生徒の60%から70%は長期化していることが分かります。不登校のきっかけとなった状況は友人関係や学業不振などの学校にかかわる状況や無気力など本人にかかわる状況などになりますが、アクティングアウト後、深刻化する事例が少なくありません。

            ○ 子どもとの円滑なコミュニケーションを図りたい

資料Ⅱ(児童生徒の自殺者数の推移)では、小・中学生と高校生の自殺者数が、平成17年度から増加し、自殺者数は年間で200人以上なります。警視庁の統計資料ではさらに多くなります。自殺(自死)は、15歳から19歳では不慮の事故に次いで死因第2位です。子どもたちが相談できない状況に陥っていることが考えられます。

            ○ 教員間での情報の共有を積極的に行う必要があります

これまでの観察法を中心にした指導方法だけでは、児童生徒の深刻な問題行動の兆候を把握することは難しく、対応が対処的になることがありました。また児童生徒に関する情報の共有が十分でないことから教職員がチームとして組織的な指導・支援ができなかったことも考えられます。

 


資料Ⅰ 学年別公立小・中学校不登校児童生徒数(左:平成18年度、右:平成27年度)

  • 中一で不登校生徒数が増加しています。小学校で不登校行動を示していない生徒から不登校行動が出現しています。
  • 中学校では、不登校行動の長期化が見られます。
  • 10年間で全国の児童生徒数は減少していますが、不登校児童生徒数は増加しています。
    3万5千人から4万人の不登校行動を示した生徒が中学校を卒業し、その多くが高校へ進学しています。
  • 平成28年度の問題行動・不登校調査では、1千人当たりの小・中学校の不登校児童生徒数が13.5人(前年度12.6人)となっています。
    小学生: 4.8人(総数 31,151人)、中学生:30.1人(総数103,247人)

 

資料Ⅱ 児童生徒の自殺者数の推移(平成3年度 ‐ 平成28年度)

  • 自殺者数が国全体で減少していますが、児童生徒の自殺者数は増加の傾向にあります。
  • 厚生労働省の調査では、15歳から19歳までの死因の第1位は、自殺か不慮の事故のどちらかです。
  • 児童生徒の中で、高校生の自殺による死亡数は多く、男子生徒の比率が高くなっています。

 

資料Ⅲ 公立小・中学校と公立高等学校の平成28年度神奈川県年齢別本務教員数の比較

  • 公立小・中学校と公立高等学校の平成28年度神奈川県年齢別本務教員数を示しています。学校組織が構造的に の年齢層にあたる教員が少ないことが分ります。
  • 多くの学校では、その強さは異なりますが、このようなM字カーブや二峰性が示されていると考えられます。この構造は、再任用制度などで一部改善は可能でしょうが、多忙化の要因や「チームとしての学校」を実現する見えない障害となり、対処的な児童生徒指導にならざるを得ない構造的な問題になっていると考えることもできます。

 

 

積極的な児童生徒指導を支援する行動分析ツール

つなぐ未来研究所(以下、つなぐ研)は、積極的な児童生徒指導を支援するための行動分析ツールとして受容感プロファイリングを開発しました。

この受容感プロファイリングの教育現場への導入を進めるために、調査結果を分かりやすく可視化し、自己肯定感や孤立感などのモニタリングが可能な Gplus (ジ・プラス:Windows版アプリケーションソフトウェア)、マークシート式質問紙、WEBアンケートを、希望する全国の学校や教育委員会へ無料で提供し、その導入支援を行っています*

学年や学校が変るなど、移行期での小中学校間、教員間の情報共有や連携強化に、受容感プロファイリングが有効だとの報告がなされています。

* つなぐ研では、現在試行の段階ですが、スクール・カウンセラーやセラピストが、教育現場で使用できるようにWEBアンケートと連携させたツールの提供(無料)も行っています。

 

Gplusプラス の機能について

Gplus * は、積極的な児童生徒指導を支援する目的で開発されたソフトウェアです

質問紙調査やWEBアンケートで得られたデータを Gplus に読み込むことで、図3、図4、図5などの資料を自動的に作成します。また、それぞれの資料は、A4版サイズにコンパクトにまとめられ、教員間の情報交換を進めるためにプロジェクターなどで映し、共有したい情報や編集された内容を直接テキストで入力する機能(図5)も備わっています。

* 現行の Gplus は、バージョン3.1.0になります。Windows7以降のOSに対応しています。

 

図1 Gplus の起動方法

Gplus は、PCにインストールせずに解凍後、デスクトップのフォルダを開き exeファイル(GPlus.exe)を左ダブルクリックすると、簡単にシステムを起動させることができます。

また、Gplus によって作成(更新)された児童生徒指導用資料はすべて、*.gap というユニバーサルファイル形式で保存されます。

 

 

図2 スタート画面(左)・ログイン画面(右)

Gplus の起動後、スタート画面が表示されます。学校を選び、ログインボタンをクリックすることで、ログイン画面に変ります。初回登録したパスワードを入力してログインします。

 

図3 学級の居心地のよさと学校生活満足度を示したチャート1

学級ごとに、児童生徒一人ひとりの学級の居心地のよさと学校生活満足度をプロットします。座標上にプロットされる児童生徒の表示名を名前以外、英数字に変更することもできます。

 

 

図4 学級の居心地のよさと孤立感を示したチャート2

学級ごとに、児童生徒一人ひとりの学級の居心地のよさと孤立感をプロットします。表示名はデータとリンクしていますので、このチャート上に、様々な情報を表示することもできます。

 

 

図5 児童生徒指導のための資料(教員向け)・・・ Gplus 3.1.0

児童生徒一人ひとりの調査結果を、教員向けの指導用資料としてコンパクトにまとめたシートになります。教員間での情報共有が進み、そのチーム力が高まるように直感的に理解でき、記憶にも残りやすいように設計されています。左にある項目は、受容感構造や孤立感などの変化が流れとして理解でき、右の項目は調査時点での心の状態が理解できるように配置されています。例えば、進路不安(将来不安)を訴えている子どものこれまでの得点(左:4.将来不安 < 8.「生きづらさ」項目のモニタリング)のを加算することが、新しい観察の視点となる気づきを促したり、教員がその深刻さを理解する手がかりになるなど、様々な活用方法が期待できます。このシートは、教員と生徒の円滑なコミュニケーションを期待して PSCo(パスコ)と命名しました。

 

図6 児童生徒指導のための資料(教員向け)・・・ Gplus 3.2.0

新しいバージョン(Gplus 3.2.0)では、小6、中1新入生、中学生、高1新入生、高校生を対象に5種類の質問紙が用意されています。小6から中1新入生、中3から高1新入生、それぞれの移行期の感情の変化を時系列でモニタリングできるように改良されています。

Gplus 3.2.0 では、学校での学習や活動において、失敗場面や屈辱経験を強く回避したいと考えている児童生徒の把握が可能になります。向上心を持ち、意欲的に活動に参加し、頑張っていても、自分が分からなかったり、できなかったりするとき、その内心では周囲からの評価をとても気にする児童生徒には、自己肯定感を保てるような先回りした指導対応が必要とされていると考えています。小6年生から中1年生への移行期には、友だちをつくれるか、いじめられたりしないか、授業についていけるかなど、不安やときには恐怖などの感情を持つことがあります。そのようなネガティブな感情の流れを把握するためには、小中学校間での調査結果の共有や指導の連携が必要とされますが、Gplus 3.2.0 では、この学校間連携を強化するために PSCo(パスコ)の向かって右側が図6のように改良されました。

 

 

図7 自己肯定感の変化をモニタリングする(左)

図5の資料 PSCo の「5.受容感構造の変化」では、児童生徒の数値化された受容感構造を時系列でモニタリングすることができます。受容感構造がどこにプロットされているかによって自己肯定感が低いかどうか、果たして低い状況が続いているかなど把握することができます。この方法は、困っていても出席状況や言動から、その感情の把握が難しい児童生徒への早期のアプローチを可能にします。

図中 (女子生徒)で示された生徒は、3回目の調査(2年生6月実施)の受容感構造からこの女子生徒の自己肯定感は低くなっているように思われます。右図の「6.学校生活満足度と学級の居心地のよさ」では、2年生では学級を居心地がよいと感じていますが、学校生活の満足度は低いことが分かります。部活動、成績の低下、進路不安など、いくつかの課題がうまく解決されていない状況が推測されます。向上心(自己評価規準)など、ほかの指標も加え、今後どのようなアプローチが必要か指導計画をつくる参考にすることができます。

 

 

図8 PSCoパスコ の機能一覧

 

 

図9 児童生徒配布・提示用資料

GAP質問紙調査の結果を児童生徒用に提示もしくは配布することを目的に、作成されるシートです。児童生徒が自分の持っている感情や対人関係を素直にふり返られるように、ネガティブな表現を避けるなど、表現に配慮してつくられています。また、教員記入欄が設けられていますので、児童生徒のよいところを見つけ記録したり、個別の相談や面談で事前に「ほめること」や「教員から『ありがとう』とを言えること」を記入したり、児童生徒の自己肯定感を高めるために活用することができます。

 

 

受容感プロファイリングの流れ

図1のように、受容感プロファイリングは1枚の質問紙(両面印刷)による調査からはじまります。質問紙調査は学級ごとに集団法で実施し、その結果をプロファイリング用ソフトウェア(plus )に読み込むことで、児童生徒の受容感構造や学級帰属意識などを学級や個人ごとに表示することができます。

図1 受容感プロファイリングの流れ


図2は、教員用に表示される学級単位のプロットチャートになります。在籍する児童生徒の受容感構造がプロットされるほか、学校生活満足度(学校がたのしい)、学級帰属意識(学級の居心地のよさ)、孤立感を組み合わせたプロットチャートを表示し印刷することができます。

図2 学級別、プロットチャート(例)


図3は、教員用に表示される児童生徒の個別プロファイリングシートになります。受容感構造、学級帰属意識(学級の居心地のよさ)、孤立感、進路不安などを直感的に理解できるように工夫されています。これまで実施した調査結果と比較するための時系列モニタリング機能により、児童生徒の見えない心(感情)の変化を把握することもできます。学校内及び学校間での情報共有を容易にするために、このような感情の数値化や可視化が行われています。

図3 教員用、プロファイリングシート(例)


図4には、教員用プロファイリングシートの活用例を示しました。受容感構造がLH型を示す児童生徒の回答結果が、内のマークであれば、自己評価規準が高く、過度に頑張ろうとしたり、否定的な周囲からの評価に対して過剰に反応するなど、自分が見えていない心配な児童生徒です。このような内面の変化は、生活面や行動面から把握のむずかしい児童生徒もいることから、回答状況から理解する手がかりを得ることができます。

図4 教員用、プロファイリングシート(例)


図5は、質問紙調査の結果を児童生徒用に提示もしくは配布することを目的に、作成されるシートになります。
児童生徒が自分の持っている感情や対人関係を素直にふり返られるように、ネガティブな表現を避けるなど、表現に配慮してつくられています。情報の連携や共有など活用範囲を広げるために、PCやタブレットから直接入力ができる教員記入欄が設けられています。

図5 児童生徒用、配布シート(例)

 

受容感プロファイリングをWebアンケートで行う

「お申し込みフォーム」からWEBアンケートの申し込み後、確認メールが送付されます

申し込み手続きが終了すると、学校ごとに設定されたアンケートURLが無料で配布されます。また、スクール・カウンセラーが学校で実施した調査結果を教員と共有できるツールの配布(無料)も行っています。

アンケート調査は、教員の指導のもと、個人でも集団でも実施することができます。児童生徒は自分用のPCかタブレットを使用し、ブラウザでアンケートURLを開き回答することができます。回答生徒数や使用期限などは、申込フォームに入力することで手間を省くことができます。申し込みからアンケートURL配布までは、1週間ほどの日数を必要としています。

WEBアンケート終了後、回答結果はサーバーに保存されませんので、安心して使用できます

 

 

 

中学生用 Webアンケート(一部)の紹介

Webアンケートには、中学生用のほかに、小学生用、中1新入生用、高1新入生用、高校生用などがあります。背景色やボタンなど、質問紙によって形式が少しずつ異なっています。

 

つぎのページから Webアンケートは、はじまります





 

Webアンケートの質問項目(一部)の紹介

質問項目は、それぞれのページに2問設定されています。項目数は、多いアンケートで50問ほどになります。つぎのページに進むには、すべての項目を回答し「次へ」をクリックしなければなりません。また、つぎのページに進んでしまうと、ページを戻り、回答を変更することはできませんので注意してください。

 




 

 

 


受容感プロファイリングを使用している先生たちの感想