ボランティア活動がつくる結び目とネットワーク

昨年の12月、三鷹市のNPO法人夢育むいく支援ネットワークの理事長大門由起子さんと理事森本かおりさんから学習支援ボランティアの活動がどのようにして生まれたのか、直接お聞きすることができました。

東京都三鷹市にあるNPO法人夢育支援ネットワーク(以下、夢育)は、学校週5日制が完全実施された翌年、2003年にNPO法人として設立します。それ以前のきらめきクラブからの活動を含めると今年で20年目になります。三鷹市が小中一貫教育校構想を掲げ、その後学園方式によるコミュニティ・スクールを導入したことは、よく知られていますが、夢育が活動の基盤としている三鷹市立第四小学校(以下、三鷹四小)は、2008年に連雀学園としてコミュニティ・スクールを導入しています。

学校内に夢育事務局が使用できるスペースが提供されていますので、学習支援ボランティアの募集や登録などコミュニティ・スクールをサポートするためにつくられたように見えますが、三鷹四小にコミュニティ・スクールが導入される10年も前からボランティア活動を続けています。夢育の活動は、NPO法人化する前の夢育の学び舎をつくるとき、三鷹四小に在籍する子どもの保護者に当時の校長先生が熱心に声をかけ、始まりました*。大門さんは、そのスタートからのメンバーになります。

大門さんのお話を聞きながら、夢育スタッフと直接かかわる教員たちの意識の変化とともに、市によって推進された教育ボランティア制度から学習支援のための市民ネットワークができていく過程がよく分かりました。NPOの活動と生涯学習、地域コミュニティの教育力などをテーマにした先行する調査研究から分かることは、学校教育と社会教育とが連携にとどまるのか、果たして一段高い学社融合を目指すレベルまで開くのかで、地域コミュニティへの活動づくりのインパクトは大きく変わると考えられます。習志野市秋津地区は、住民どうしのフラットな関係づくり(パートナーシップの構築)から小学校施設の稼働率を高める様々な活動づくりが見られた事例でしたが、三鷹四小では、小中一貫教育校とコミュニティ・スクールの導入以前に、学校が保護者や住民に声をかけ教育ボランティアを募る活動を始めることで、学校を開いていきました。

昨年8月に実施した予備的な調査では、夢育の学習支援活動をコミュニティ・スクール導入という教育施策の成果のように考えていましたが、そうではなく1970年代からスタートした社会教育を充実させるための施策や地区ごとに開催された住民協議会などの成果として、行政サイドと市民(住民)サイドが持つ「お上」意識が変っていく過程で、市民協働の文化が豊かに醸成されていたことが、夢育のボランティア活動を生む原動力になったことを今回の聞き取り調査とその後フォローすることでよく分かりました。

今回の聞き取り調査から、市民が潜在的に持っている能力がテーマごとにまとまったり、その自発性が育つような土壌(インフォーマルな制度)がつくられる過程では、社会教育と学校教育が担う役割があり、そのことが明らかになってきたことは大きな収穫でした。

少し硬めの表現ですが、制度としてのコミュニティ・スクールは、地方教育行政法の改正に基づき学校ガバナンスの学校運営協議会への移行と学校経営への住民参加(参画)によって、何を変えようとしていたのか、現状の課題とともに見えてきました**。

調査の前はコミュニティ・スクールの導入と社会教育施策にかかわる課題に関心を持っていましたが、聞き取りを終え三鷹市夢育のみなさんが示してくださった視点は、校務に住民が意見を述べる場としての学校評議会とは異なり学校運営協議会がコミュニティをベースにした熟議によるデモクラシーの受け皿となる秋頃にこのレポートの後半として紹介する予定です。三鷹市が新しく掲げる教育ビジョンには、学校を核とするコミュニティづくり(スクール・コミュニティの創造)

〔付録1〕地域に住む大人たちがボランティアとして学校教育にかかわる活動づくりは、「○○学校おやじの会」など、学校がコミュニティ・スクールである必要性はないと思います。また、学社融合の実践として学校を開くことで学校教育の質を改善しようとする事例も全国で見られます。これまでの聞き取り調査では、三鷹市の他に北海道恵庭市など、文庫活動を熱心に行っているところでは、図書館や社会教育のスタッフが中心となった学社融合の活動づくりは、盛んでした。生涯学習、学社融合、開かれた学校と、コミュニティ・スクールでは、何が異なっているのか、そのことを知る手がかりを夢育のみなさんのボランティア活動から得られたように思います。

〔付録2〕三鷹市では医師でもあった鈴木平三郎市長のとき、1973年に全国初めて下水道普及率が100パーセントとなりました。その後、市民協働のまちづくりへ大きく舵を切ることになります。前市長の安田養次郎さんも市政は経営するものという理念を継承し主要な財政指標に目標を設定するなど市の財政状況や取り組みを積極的に公開し、三鷹市のあり方を市民と一緒に考えたいと、2002年に 三鷹市自治体経営白書 を発行しています。また現市長の清原慶子さんの1970年代三鷹市での文庫活動に関する研究では、生涯学習社会と市民の社会参画に関する興味深い事例の報告があります***。この20年ほどの市政をふり返ると、2001年公募による市民会議の開催、2006年みたかまちづくりディスカッション(ドイツの Planungszelle プラーヌンクスツェレを参考に無作為抽出へ変更)の開始、まちづくり条例(三鷹市自治基本条例)の制定、またコミュニティ・スクールと小中一貫教育校(学園方式)の全市的導入、新しい教育ビジョンの策定など、アクティブ・シティズンシップ(active citizenship)やスクール・コミュニティをテーマに、生涯学習社会にかかわる施策が展開されています。

* この教育ボランティア制度づくりについては、当時校長だった貝ノ瀬滋さんが2010年に出版された「小・中一貫コミュニティ・スクールのつくりかた」(ポプラ社)の64ページから65ページに、NPO法人化の目的などと一緒に、分かりやすく紹介されています。

** 地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正とコミュニティ・スクールについては、つぎの文科省のURLに公開されている条文の解説を参考にしてください。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/community/suishin/detail/1313081.htm (2019年2月7日 参照)

*** 清原慶子 地域社会と社会教育 文庫活動の展開と主婦の意識変化をめぐる一事例研究(慶応義塾大学大学院社会学研究科紀要, 1978)